医療の人手不足の現状と原因とは?【2025年】効果的な対策9選も紹介

「医療の人手不足の現状はどうなっているの?」
「現場で働く医療従事者が大変なのに、根本的な解決策が見えてこない」

団塊世代が後期高齢者となり医療需要が急増する一方で、慢性的な人手不足により医療提供体制の維持が困難な状況となっています。
この問題を放置すれば、地域医療の崩壊につながりかねません。

本記事では、統計データに基づいて、医療における人手不足の現状を取り上げます。
さらに、採用・定着策や最新テクノロジーを活用した解決策を、具体的に紹介します。

【この記事を読むと得られるメリット】
・医療業界の人手不足の現状を具体的なデータで把握できる
・人手不足の根本原因が理解でき、問題解決への糸口が見つかる
・採用強化からAI活用まで、実践的な解決策が学べる

医療の質と安全を守りながら、持続可能な医療提供体制を構築するために、これらの情報をお役立てください。

目次

1. 医療業界の人手不足が深刻化している現状データ

日本の医療業界では、医師・看護師をはじめとする医療従事者の深刻な人手不足が続いています。
まずはその現状をデータから紐解いていきましょう。

  1. 日本は国際的に見て医師の数が少なく地域によって偏りがある
  2. 看護師需要は2025年に約27万人不足の可能性がある
  3. 薬剤師や医療技師も人材確保が困難な傾向がある

    1-1. 日本は国際的に見て医師の数が少なく地域によって偏りがある

    日本の医師数は約34万人(2022年時点)です。

    全国保険医団体連合会のサイトでは、
    〈人口1000人あたりの医師数(臨床医)は2.4人でOECD諸国(36カ国)のうちワースト5位であり、OECD加盟国の平均である約3.5人と比較すると、日本は13万人も医師が少ない計算になる〉
    との趣旨が指摘されています(出典:全国保険医団体連合会「医師数「過去最高」でもOECD平均より13万人少ない」)。

    この医師不足は全国一律ではなく、地域間格差が深刻な問題となっています。

    都道府県別医師数の格差
    医師数の上位地域:2022年末時点の厚労省統計によると、徳島県が人口10万人あたりの医師数335.7人で最多です。
    これに続き、高知県・京都府など医師養成機関や大病院の多い地域が上位を占めています。
    これらの地域では医科大学や大学病院が集積し、研修環境も充実しているため医師が集まりやすい構造があります。

    医師数の下位地域:一方、埼玉県が人口10万人あたりの医師数180.2人で最少となっており、次いで茨城県・千葉県といった大都市近郊でありながら医師数が少ない地域が目立ちます。
    これらの地域では人口増加に医師の供給が追いついておらず、慢性的な医師不足が常態化しています。

    格差の実態:最多の徳島県と最少の埼玉県では約1.9倍もの開きがあります。
    同じ日本国内でありながら、医療アクセスに大きな地域差が生じています。
    さらに地方では、診療科によって医師が
    まったく足りない「無医地域」も存在します。

    診療科間の偏在も深刻で、小児科・産科・救急科など過酷な診療科では、医師確保がとくに困難です。
    厚生労働省の統計では、2020年から2022年にかけて小児科医数が1.2%減少し、産婦人科や外科医も横ばいから微減となっています。

    出典:厚生労働省「令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の結果を公表します」

    1-2. 看護師需要は2025年に約27万人不足の可能性がある

    一方、看護師の人手不足も深刻な状況にあります。

    厚生労働省の将来推計によれば、2025年に必要な看護師数は約188万202万人と見込まれる一方、供給見込みは約175万182万人にとどまり、最大で27万人の看護師が不足する可能性があります(出典:厚生労働省「医療従事者の需給に関する検討会看護職員需給分科会中間とりまとめ(案)」)。

    この不足数は勤務環境の改善シナリオなど複数ケースで推計された数字ですが、少なく見積もっても数万人規模の不足は避けられない状況です。

    看護師不足の深刻な実態
    離職率の高さ:日本看護協会の調査では、2023年度の病院勤務看護職員の離職率は新卒で8.8%、既卒採用者では16.1%に上っています。
    20
    30代の若手が数年で退職してしまうケースが多く、養成・採用しても定着しないため常に人手不足が解消されません。

    業務負荷が増える現状:日本医労連らの2022年の調査によれば、看護職員が「仕事を辞めたい」と感じている割合は79.2%にも達し、その理由の第1位は「人手不足で仕事がきつい」(58.1%)となっています。
    人員不足そのものが業務の過重負担と長時間労働を生み出し、それが離職を誘発する負のスパイラルに陥っているのが現状です。

    地域格差の拡大:都市部に看護師が集中し、地方の医療機関では慢性的な人手不足に陥っています。
    地方では看護師1人あたりの受け持ち患者数が多くなり、労働負荷がさらに増大する悪循環が生じています。

    さまざまなデータから浮かび上がるのは、現場の過酷な労働実態です。

    出典:公益社団法人日本看護協会「2024 年 病院看護実態調査 報告書」調査時期:2024 年10 月1日11 月15日/調査対象:全国の病院8,079施設(全数)※看護部長に回答を依頼/有効回答数:3,417、日本医労連・全大教・自治労連「2022 年看護職員の労働実態調査」調査時期:2022年10月12月/調査対象:日本医労連、全大教、自治労連の加盟組合のある医療機関・介護事業所などで勤務している看護職員(保健師、助産師、看護師、准看護師)/有効回答数:35,933人分

    1-3. 薬剤師や医療技師も人材確保が困難な傾向がある

    薬剤師や臨床工学技士、診療放射線技師、臨床検査技師などのコメディカル職種でも人手不足が続いています。

    厚生労働省の調査では全都道府県で病院薬剤師が必要数を満たせておらず、最高の京都府でも95%、最低の青森県では55%しか充足できていない状況です(出典:厚生労働省「第13回薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」)。

    また、特筆すべき点は、地域偏在の傾向が強まっていることです。
    たとえば薬剤師の場合、都市部のドラッグストアなどには比較的集まりやすい一方、地方の病院や調剤薬局では、深刻な人手不足に陥っている現状があります。

    2. 医療における人手不足の7つの根本原因とメカニズム

    医療業界の人手不足は単一の要因ではなく、複数の構造的問題が複雑に絡み合って発生しています。
    その背景を以下で見ていきましょう。

    1. 医療需要の急増と労働人口の減少が同時進行している
    2. 地域偏在で都市部集中と地方の医療過疎が拡大している
    3. 厳しい労働環境と長時間勤務で離職率が高止まりしている
    4. 給与水準と責任の重さのバランスが悪化している
    5. 医療技術の高度化で求められるスキルレベルが上昇している
    6. 新規養成数が頭打ちとなっている
    7. 職場のハラスメントや人間関係の問題が見られる

    2-1. 医療需要の急増と労働人口の減少が同時進行している

    日本は世界に例を見ない速さで高齢化が進行し、医療需要と労働力供給の構造的なミスマッチが深刻化しています。
    この人口構造の変化によって、医療提供体制の維持がきわめて困難な状況となっています。

    少子高齢化による需給バランス悪化の構造
    医療需要の増加:高齢者は複数の慢性疾患を抱えるケースが多く、がん・循環器疾患・認知症など専門的な医療を必要とする患者が急増しています。
    医療従事者1人あたりが担当する業務量が大幅に増加し、「常に人手が足りない」状態が常態化しています。

    労働力供給の構造的な制約:少子化により医療従事者として新たに参入する人材が減少しています。
    医学部定員も、長年抑制されてきました。急激な高齢化による需要急増に供給が追いついていません。

    人材不足の常態化:需要過多と供給不足により一人ひとりの医療従事者にかかる業務負荷が増大し、新たな医療技術の導入や質の向上に取り組む余裕もなくなっています。
    抜本的な対策を講じなければ、医療現場の疲弊がさらに深刻化する恐れがあります。

    2-2. 地域偏在で都市部集中と地方の医療過疎が拡大している

    医療従事者の地域間格差は年々拡大しており、都市部への人材集中と地方の医療過疎化が深刻化しています。
    若手医療従事者の都市部志向は根強く、地域偏在の解決は困難な状況が続いています。

    地域偏在が深刻しているメカニズム
    都市部集中の加速:大学病院や専門病院が都市部に集中しており、最新の医療技術や設備に触れられる研修環境を求めて、医師が都市部に集まります。
    地方では医療機関の規模が小さく、キャリアパスが限定的で、生活面でも都市部のような利便性がありません。

    悪循環の拡大:地方で医師・看護師が不足するほど、既存職員の負担は増大し、さらなる離職を招く悪循環に陥ります。
    医療機能の縮小により患者が都市部の病院に流れ、地方病院の経営が悪化するという負のスパイラルも見られます。

    政策による効果の限界:政府は地域偏在対策として医師偏在指標の導入や地域枠制度の拡充を進めています。
    しかし配偶者のキャリアや子どもの教育環境への不安なども含め、地方の魅力向上と人材定着には引き続き大きな課題が残っています。

    2-3. 厳しい労働環境と長時間勤務で離職率が高止まりしている

    医療現場の過酷な労働環境が、人材不足を深刻化させる大きな要因となっています。
    労働環境の改善なくして人材定着は困難であり、根本的な解決が急務となっています。

    労働環境の過酷さの実態
    異常な長時間労働:病院勤務医の場合、当直明けも連続勤務が続くケースや週80時間を超える労働が恒常化しています。
    看護師の夜勤回数は月平均7〜8回程度で、2交代制の場合は1回あたり16時間の長時間勤務となり、睡眠不足や疲労蓄積により心身の健康を害するリスクが高まっています。

    休暇取得の困難さ:人手不足により有給休暇の取得が困難で、医療職の有休消化率は他業界より低い水準にあります。
    連続休暇や長期休暇の取得はさらに困難で、リフレッシュの機会が少ないため精神的な疲労が蓄積し、バーンアウト(燃え尽き症候群)に至りやすくなります。

    制度改善の限界:2024年から医師の時間外労働上限規制が導入されましたが、実際には特例上限いっぱいの残業をしている医師も多く存在しています。
    慢性的な人手不足により1人当たりの業務量が膨大になり、長時間労働や夜勤が避けられない状況が続いています。

    出典:厚生労働省「医師の働き方改革2024年4月までの手続きガイド」公益社団法人日本看護協会「2024 年 病院看護実態調査 報告書」調査時期:2024 年10 月1日11 月15日/調査対象:全国の病院8,079施設(全数)※看護部長に回答を依頼/有効回答数:3,417

    2-4. 給与水準と責任の重さのバランスが悪化している

    「医療従事者の給与水準と職務責任の重さが見合わない」という構造的な問題も、人材確保を困難にしています。
    これらの処遇面の問題は、とくに若い世代の医療従事者の職業選択や継続意欲に大きな影響を与えています。

    処遇と責任のアンバランス
    賃金水準への不満:2022年の日本医労連らの調査では、看護師の仕事を辞めたい理由の第2位が「賃金が安い(42.6%)」となっています。
    人の生命に関わる重大な責任を負いながら、その労働時間や精神的負担に見合った十分な処遇が得られていないと感じる医療従事者が増えています。

    勤務医の処遇に関する課題:医師についても、とくに勤務医は当直や時間外労働への手当が十分とはいえず、労働時間に対する報酬が見合わないと感じるケースも少なくありません。
    時間外労働を含めた時給換算では、高水準とはいえない状況です。

    評価制度の不備:専門性を高めても処遇に反映されない、管理職になっても責任だけが重くなり報酬は微増といった状況に対する不満の声も聞かれます。
    キャリアアップの機会や適正な評価制度が不十分な環境では、処遇制度の改善が重要な課題となっています。

    出典:日本医労連・全大教・自治労連「2022 年看護職員の労働実態調査」調査時期:2022年10月12月/調査対象:日本医労連、全大教、自治労連の加盟組合のある医療機関・介護事業所などで勤務している看護職員(保健師、助産師、看護師、准看護師)/有効回答数:35,933人分

    2-5. 医療技術の高度化で求められるスキルレベルが上昇している

    医療技術の急速な進歩により、医療従事者に求められる知識・技術レベルが年々高度化していることも人材不足の一因となっています。
    この技術高度化と人材育成のギャップにより、現場では「使える人材」の育成が困難となり、人手不足感がさらに深刻化する悪循環が生じています。

    技術高度化による人材育成の困難
    専門性の高度化と研修期間の不足:がん治療における分子標的治療薬、循環器領域のカテーテル治療、手術支援ロボットの操作など、高度に専門化された技術を習得するには長期間の研修が必要です。
    しかし現場の人手不足により十分な教育期間を確保することが困難で、OJT(職場内研修)の質が低下し、新人の技術習得に時間がかかる事例も発生しています。

    継続的な学習の負担:医療従事者は資格取得後も継続的な学習が義務付けられており、学術集会への参加や認定資格の取得など自己研鑽に多大な時間と費用を要します。
    長時間労働の中でこれらの学習時間を確保することはきわめて困難で、スキルアップを断念する医療従事者も少なくありません。

    指導者不足の深刻化:ベテラン医療従事者の退職により、新人や若手を指導できる経験豊富な職員も不足しています。
    新しい治療法・診断技術・医療機器の導入に伴い継続的な学習と技術習得が必要となる一方で、人手不足により研修や教育に十分な時間を割けない状況が生じています。

    2-6. 新規養成数が頭打ちとなっている

    医療従事者の養成における構造的な制約も、人手不足の根本原因のひとつです。
    教育・養成システムの制約により、中長期的な人材供給量の増加には限界があり、需要増加に追いつかない構造的な問題が続いています。

    養成数制約の歴史と現状
    医師養成の抑制:日本では1990年代に医療費抑制策の一環で医師養成数が絞り込まれた経緯があり、2008年以降一時的に定員増が図られました。
    しかし、医師が一人前になるまで約10年を要するため即座に不足が解消されません。

    看護師・コメディカル職種の課題:看護師については少子化で学生自体が減っていることに加え、看護職の労働環境へのイメージなどから志望者が伸び悩んでいる地域があります。
    コメディカル職種では養成機関自体の数が限られており、需要増加に対して供給数を大幅に増やすことが困難です。

    地域での人材循環機能不全:地方では養成機関が少ないうえに、せっかく地元で人材を育成しても都市部の病院へ流出してしまうケースが多くなっています。
    地域での人材循環が機能せず、養成数を増やしても地方の人手不足解消には直結しない構造的な問題があります。

    参考:日本医師会勤務医委員会「平成22年3月平成20・21年度勤務医委員会答申医師の不足、偏在の是正を図るための方策-勤務医の労働環境(過重労働)を改善するために-」

    2-7. 職場のハラスメントや人間関係の問題が見られる

    医療現場における職場の人間関係やハラスメント問題も、離職率の高さと人材定着の困難さに影響しています。

    職場環境の問題は、技術や知識を持った優秀な人材であっても早期退職に追い込まれる原因となります。
    働きやすい職場風土の醸成が人材定着のための重要な課題です。

    職場環境悪化の要因
    ハラスメントの多発:医療現場では上下関係が厳格で、パワーハラスメントが発生しやすい構造があります。
    とくに研修医や新人看護師に対する行き過ぎた指導や、人格を否定するような叱責が行われる例も報告されています。
    人手不足により負担が増大するなかで、同僚間での責任の擦り付け合いや、夜勤・休日出勤の分担を巡る職員間の対立が生じている職場もあります。

    コミュニケーション不足の深刻化:慢性的な忙しさにより職員同士のコミュニケーションが希薄になり、相談しにくい雰囲気や孤立感を生む一因となっています。
    新人や中途採用者が職場になじめず、十分なサポートを受けられないまま離職してしまうケースも散見されます。

    管理職の対応力の不足:管理職自身も現場業務に追われ、部下の精神的ケアや職場環境改善に十分な時間と労力を割けない現状があります。
    人手不足によるストレスフルな環境下では、関係悪化が生じやすく、医療機関にとって大きな損失となっています。

    3. 即効性のある人手不足の解決策【採用・定着編】

    深刻な人手不足に対処するために、具体的に何をすべきでしょうか。まずは採用や定着に関わる5つの対策を見ていきましょう。

    1. 給与体系を見直して引き上げる
    2. 福利厚生を充実させる
    3. 柔軟な勤務制度を導入し時短や在宅ワークを実現する
    4. 職場環境を改善しハラスメントを防ぐ
    5. 研修制度やキャリアアップ支援を強化する

      3-1. 給与体系を見直して引き上げる

      医療機関が最も直接的に実施できる人材確保策が、給与水準の見直しと引き上げです。

      給与改善策の例
      基本給の大幅引き上げ:地方の公立病院では、都市部より高い給与設定で医師を招聘したり、看護師の初任給を地域相場より高く設定することで人材確保に成功している事例があります。
      人手不足が深刻な診療科では、高額な年俸を提示する制度を導入する病院も増えています。

      各種手当の充実:夜勤手当の増額、危険手当や感染手当の新設、資格取得支援金の支給など、基本給以外の手当を充実させることで実質的な収入向上を図ります。
      コロナ禍では感染リスクに対する特別手当を支給した医療機関も多く見られました。

      長期勤続インセンティブ:複数年勤務での報奨金制度や勤続年数に応じた昇給制度を導入し、長期定着を促進する仕組みを構築します。
      たとえば「5年勤務で300万円の報奨金」「10年勤務でマイホーム取得支援金」など、魅力的な長期インセンティブが考えられます。

      給与改善は即効性が高く、求人応募者数の増加や離職率の低下に直結する効果が期待できます。

      3-2. 福利厚生を充実させる

      給与以外の福利厚生の充実も、人材確保と定着に大きな効果を発揮します。

      福利厚生施策の例
      院内保育所の設置・拡充:24時間保育や病児保育に対応した院内保育所を設置し子育て中の看護師や医師の勤務を支援します。
      夜勤時も子どもを預けられる環境があれば
      子育て世代の医療従事者の就業継続率の向上が期待できます。

      住宅支援制度の充実:家賃補助や社宅・寮の提供、マイホーム取得支援金の支給など、住居に関する支援を手厚くすることで経済的負担を軽減します。
      たとえば、築浅・セキュリティ完備のきれいな看護師寮の整備を進めている病院は、多く見られます。

      充実した福利厚生は、給与という尺度だけでは測れない「働きやすさ」という価値を生み、職場全体の魅力を高めます。

      3-3. 柔軟な勤務制度を導入し時短や在宅ワークを実現する

      従来の画一的な勤務形態を見直し、職員のライフステージやニーズに応じた柔軟な勤務制度を導入する医療機関も増えています。

      多様な勤務制度の例
      短時間常勤制度:フルタイム勤務が困難な職員向けに、週30時間程度の短時間常勤制度を導入し、育児や介護と両立しながら働ける環境を整備します。
      常勤職員としての安定した雇用を保ちながら、勤務時間を調整できるため、潜在看護師の復職促進にも効果を発揮します。

      夜勤専従・日勤専従の選択制:職員の希望に応じて夜勤専従や日勤専従を選択できる制度を導入し、ライフスタイルに合わせて働けるようにします。
      夜勤専従を希望する職員には手厚い夜勤手当を支給し、日勤専従を希望する職員には規則正しい勤務時間を保証するなど、多様なニーズに対応します。

      事務系業務のリモートワーク:医事課や総務部門などの事務系職種では、在宅勤務やサテライトオフィス勤務を導入する方法があります。
      育児中の職員や遠距離通勤者にとって大きなメリットとなり、人材確保の競争力向上につながります。

      日本には資格を持ちながら現在医療職に就いていない「潜在看護師」「潜在保健師」などが相当数、存在しています。

      柔軟な勤務制度を整備すれば、従来は就業が困難だった潜在的な人材層を活用できるようになり、人手不足の緩和が期待できます。

      厚生労働省が2015年に開始した免許保有者の届出制度(とどけるん制度)とも連携し、人材活用を進めていきましょう。

      3-4. 職場環境を改善しハラスメントを防ぐ

      働きやすい職場風土の醸成は、人材定着にとってきわめて重要な要素です。
      ハラスメントの防止や職員間のコミュニケーション改善、相談体制の整備などにより、心理的安全性の高い職場環境を構築する取り組みが各地で進められています。

      職場環境改善の取り組み例
      ハラスメント防止体制の強化:ハラスメントの防止に向けて、相談窓口の設置、研修の実施、処罰規定の明確化などを徹底します。
      第三者機関による相談窓口を設置し、被害者が安心して相談できる環境を整備して、職場の安全性を向上させましょう。

      メンタルヘルス支援の充実:産業医やカウンセラーによる相談窓口を設置し、職員のメンタルヘルスケアに積極的に取り組みます。
      定期的なストレスチェックの実施、管理職による定期面談、職員同士のピアサポート制度の導入など、多面的な支援体制を構築します。

      コミュニケーション活性化策:職員間のコミュニケーションを促進するため、定期的な懇親会の開催、部署を超えた交流イベント、提案制度の活用などを実施することも良案です。
      とくに新人や中途採用者が職場に
      なじみやすくするために役立ちます。

      職場環境の改善により職員満足度が向上し、「この職場で長く働きたい」と感じる職員が増加していくと自然な人材定着効果が期待できます。

      3-5. 研修制度やキャリアアップ支援を強化する

      医療従事者のキャリア形成支援と専門性向上のための仕組みを充実させることも、人材確保と定着に効果をもたらします。

      研修・教育支援制度の例
      体系的な研修プログラム:新人から管理職まで、職階に応じた体系的な研修プログラムを構築し、段階的なスキルアップを支援します。
      たとえば、看護師の臨床実践能力を段階的に評価・育成する「クリニカルラダー制度」は、モチベーション向上とキャリア形成を促す有効な仕組みとして、導入する医療機関が増えています。

      専門資格取得の全面支援:認定看護師や専門看護師、各種医療技術の認定資格取得に向けて、研修費用の全額補助・勤務調整・代替要員の確保などを行い、職員の専門性向上を全面的にバックアップします。
      資格取得後は手当支給や昇進機会の提供を通じて、努力に見合うリターンを保証します。

      学会参加・研究活動支援:学術集会への参加費用補助、研究活動のための時間確保、論文発表支援など、職員の学術活動を積極的にサポートします。
      医療の最新動向に触れ、専門性を高められる環境は、向学心の高い医療従事者の確保と定着に有効です。

      こういった仕組みが充実していれば、職員は自身の成長を実感でき、長期的なキャリア形成の展望を持てるようになります。
      結果として、定着率の向上と組織全体の医療水準向上につながります。

      4. 業務効率化と負担軽減による人手不足の解決策【テクノロジー活用編】

      限られた人材で最大限の医療サービスを提供するため、先端技術を活用した業務効率化も急速に進んでいます。
      テクノロジーを活用した対策を4つ、見ていきましょう。

      1. AIアバターで多様な業務を自動化する
      2. 電子カルテシステムを導入する
      3. AI診断支援ツールで医師の診断業務をサポートする
      4. 遠隔医療システムで地方の医師不足をカバーする

        4-1. AIアバターで多様な業務を自動化する

        AI技術の進歩により、医療現場のさまざまな業務をAIが代行・支援できるようになっています。

        とくにAIアバターを活用した業務効率化は、医療従事者の業務負担を大幅に軽減する効果が期待されます。
        具体的な事例として、近畿大学病院では、アバター活用による受付省人化の実証実験が行われています。

        出典:AVITA「近畿大学病院でアバター活用による受付省人化の実証実験を実施」

        近畿大学病院における取り組み例
        受付業務の無人化の実現:1日あたり平均約2,200人の外来患者と約750人の入院患者への対応が必要な状況にあり、アバター活用による受付省人化の実証実験を実施しています。
        受付に設置したディスプレイの表示に従って来院者がマイクに話しかけると、受付担当の職員が遠隔で操作するアバターが対応する仕組みです。

        多言語をはじめとする柔軟な対応:従来は受付での対応人数に限界があり、長時間の待機が発生していました。
        さまざまな言語への対応も課題のひとつです。
        多言語対応が可能なAVITA社のアバター接客サービス「AVACOM」を活用し、根本的な解決を目指しています。

        患者に寄り添うサービス提供:アバターは、ときに人よりも話しやすく気軽に相談ができるため、職員の負荷軽減に貢献するだけでなく、患者や来院者に寄り添うサービスの提供が可能です。

        将来的な医療業務への展開:将来的には、AI技術を活用して総合案内や診療受付だけでなく、手術や入院時の説明を行う医療従事者のサポートとしてもアバターを活用する予定です。
        受付業務の無人化を実現する初の大学病院を目指し、医療分野におけるDXを推進しています。

        具体的なソリューションとしては、「WONDERGIRL powered by AVITA」が挙げられます。
        AVITA提供の「AVACOM」を活用した、
        生成AIによる自動応対と、オペレーター(人)による応対の切り替えが可能な、次世代型のAI接客アバターサービスです。

        「WONDERGIRL powered by AVITA」はアバターと人のハイブリッド対応が可能で、さまざまなスタイルのアバター接客に応用できます。
        人が複数拠点を遠隔対応できる点は、当サービスならではの
        特徴となります。

        詳しくは以下のリンクよりお問い合わせください。

        4-2. 電子カルテシステムを導入する

        紙カルテにおける、情報検索の遅れや部門間連携の滞りといった課題は、電子カルテの導入によって大きく改善できます。

        電子カルテによる効率化の効果
        情報検索や参照の高速化:過去の診療記録や検査結果を瞬時に検索・参照できるため、効率性が大幅に向上します。
        複数の診療科で同一患者を診療する場合でも、リアルタイムで情報共有が可能です。重複検査の回避や治療方針の統一が図れます。

        オーダリングシステム(医師が処方や検査指示を電子的に入力するシステム)との連携:処方箋発行、検査オーダー、入院指示などもデジタル化すれば転記ミスの防止と業務効率化が同時に実現します。
        薬剤部や検査部との連携もスムーズになり、患者への検査結果説明や薬剤指導のタイミングも最適化できます。

        統計・分析機能の活用:診療実績や患者動向の集計が自動化され、経営分析や医療の質評価に必要なデータを迅速に取得できるようになっています。
        これまで医師や事務職員が手作業で行っていた作業が不要となり、より付加価値の高い業務に時間を振り分けられます。

        また、地域医療連携システムを導入すれば、医療機関の垣根を超えた情報共有も円滑化できます。
        紹介状作成や逆紹介の業務負担も、大幅な軽減が期待できます。

        4-3. AI診断支援ツールで医師の診断業務をサポートする

        画像診断や病理診断の分野でAI技術の実用化が進み、医師の診断業務を強力にサポートするツールが普及しつつあります。

        とくに、専門医不足が深刻な放射線科や病理診断科では、AIによる診断支援は質の高い医療を維持するための重要な役割を担い始めています。

        AI診断支援の実用化の例
        画像診断AIの活用:胸部X線写真やCT画像の読影において、AIが異常所見を自動検出し、見落としリスクを大幅に軽減するシステムが実用化されています。
        放射線科医1人あたりの読影可能件数が増加し、診断報告書の作成時間も短縮され
        ます。

        病理診断支援システム:がん細胞の識別や組織診断においてAIが病理医の判断をサポートし、診断精度の向上と業務効率化を同時に実現しています。とくに病理医不足が深刻な地方病院では、AIのスクリーニング機能により、限られた専門医でより多くの症例に対応できるようになっています。

        内視鏡診断の高度化:消化器内視鏡検査においてAIがポリープやがんの早期発見を支援し、見逃し率の低下と診断時間の短縮を同時に達成しています。内視鏡専門医の負担軽減により、より多くの患者に質の高い検査を提供できます。

        これらのAI診断支援は、診断の質と効率の両面で大きな改善効果が期待される分野です。
        今後の技術的成熟とともに、その役割はますます重要になっていくでしょう。

        4-4. 遠隔医療システムで地方の医師不足をカバーする

        遠隔医療技術の発達により、医師不足が深刻な地域でも、都市部の専門医による診療を受けられる体制が整備されつつあります。

        遠隔医療の活用例
        オンライン診療:スマートフォンやタブレットを使った遠隔診療により、通院が難しい患者や離島・山間部の住民が専門医の診察を受けられるようになっています。
        LINEドクター(現在はサービス終了し新たに
        「HELPOドクター」がスタート)などのプラットフォームでは、患者が気軽に医師に相談し、必要に応じて処方箋を受け取れるサービスが人気を集めており、医療アクセスの向上に貢献しています。

        遠隔画像診断システム:地方病院で撮影したCT・MRI画像をインターネット経由で都市部の放射線科専門医が読影するサービスが普及し、放射線診断専門医の不足を効果的に補完しています。
        「株式会社ドクターネット」のように24時間365日対応の遠隔読影サービスを提供している例もあり、緊急時でも迅速な診断が可能となっています。

        遠隔視触診:5G通信技術を活用し、専門医が離れた場所から診察を行う遠隔医療の研究が進んでいます。
        北海道大学病院などが参加した共同実験では、触覚フィードバックを伴う「遠隔視触診」に成功しています。
        とくに触診が重要な整形外科や皮膚科領域において、遠隔診療の精度向上に貢献することが期待されています(参考:
        NTTコミュニケーションズ「北海道内の中核病院群を結んだ5G遠隔視触診実験に成功」)。

        このように、遠隔医療技術の発展は、医療における人手不足という構造的な課題を解決し得る、大きな可能性を秘めています。

        5. まとめ

        本記事では「医療における人手不足」をテーマに解説しました。要点をまとめておきましょう。

        医療業界の人手不足が深刻化している現状データとして、以下を解説しました。

        1. 日本は国際的に見て医師の数が少なく地域によって偏りがある
        2. 看護師需要は2025年に約27万人不足の可能性がある
        3. 薬剤師や医療技師も人材確保が困難な傾向がある

          医療における人手不足の7つの根本原因とメカニズムは以下のとおりです。

          1. 医療需要の急増と労働人口の減少が同時進行している
          2. 地域偏在で都市部集中と地方の医療過疎が拡大している
          3. 厳しい労働環境と長時間勤務で離職率が高止まりしている
          4. 給与水準と責任の重さのバランスが悪化している
          5. 医療技術の高度化で求められるスキルレベルが上昇している
          6. 新規養成数が頭打ちとなっている
          7. 職場のハラスメントや人間関係の問題が見られる

            採用・定着にかかわる人手不足の解決策として、以下を解説しました。

            1. 給与体系を見直して引き上げる
            2. 福利厚生を充実させる
            3. 柔軟な勤務制度を導入し時短や在宅ワークを実現する
            4. 職場環境を改善しハラスメントを防ぐ
            5. 研修制度やキャリアアップ支援を強化する

              テクノロジーを活用した解決策としては以下が挙げられます。

              1. AIアバターで多様な業務を自動化する
              2. 電子カルテシステムを導入する
              3. AI診断支援ツールで医師の診断業務をサポートする
              4. 遠隔医療システムで地方の医師不足をカバーする

                医療の人手不足は、本記事で見てきたように根深い構造的問題を抱えています。
                処遇改善や働き方改革といったアプローチに加え、AIをはじめとする先端技術の活用も視野に入れた、多角的かつ戦略的な取り組みが不可欠です。

                多角的な取り組みにより、持続可能な医療体制を未来へつないでいきましょう。

                #医療 #人手不足

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