受発注業務をシステム化したいと思っても、いきなりすべての受発注業務をWeb注文に切り替えるのは簡単ではありません。
特に中小企業では、取引先ごとに注文方法が異なったり、社内の確認フローが長年固定化していたり、商品情報や在庫情報の整備に時間がかかったりと、業務を変えにくい事情があります。
実際、中小企業庁が運営する中小企業向け支援サイト「ミラサポplus」では、中小企業における「電子文書での商取引や受発注情報管理」の利用率は18.5%にとどまり、多くの中小企業では電話やFAXなど従来の方法で受発注を行っていると紹介されています。
出典:ミラサポplus「企業間のデータ連携で、受発注の業務コストを削減する!」をもとに作成
受発注業務のシステム化は、最初からすべてを変えようとしなくても進められます。
一部の取引先、一部の商品、一部の業務から小さく始めることで、現場にも取引先にも無理なく定着させやすくなります。
この記事では、受発注業務のシステム化で起こりやすい失敗例を踏まえながら、スモールスタートで導入する進め方を解説します。
目次
1.中小企業で受発注業務のシステム化が進みにくい理由
1-1. 紙・電話・FAXでの業務は変えにくい
受発注業務は、長年の取引慣習や社内ルールが積み重なりやすい業務です。
たとえば、ある取引先はFAXで注文書を送ってくる一方、別の取引先は電話で在庫を確認してからメールで発注する。
さらに、社内では営業担当が注文内容を確認し、受注担当が販売管理システムへ入力し、在庫担当へ納期を確認する。
このように、受発注業務は一つの作業に見えても、実際には複数の人と手順が関わっています。
そのため、単にシステムを導入するだけでは運用は変わりません。
「取引先が使ってくれるのか」
「FAXや電話が結局残るのではないか」
「商品情報や価格情報を整備できるのか」
といった不安が出やすく、導入前の調整も大きくなります。
中小企業で受発注システムを導入する際は、まず「変えやすい部分」と「すぐには変えにくい部分」を分けて考えることが重要です。
1-2. 受発注業務は「取引先を巻き込む」ため難易度が高い
会計ソフトや勤怠管理システムであれば、主に社内の運用を変えれば導入できます。
一方、受発注システムは取引先にも使ってもらう必要があります。
つまり、導入の成否は「自社が使えるか」だけでなく、取引先が使い続けてくれるかにも左右されます。
そのため、最初から全取引先を対象にするよりも、協力を得やすい取引先や、注文頻度の高い取引先から始めた方が現実的です。
2.受発注システム化で起こりやすい失敗例
2-1. いきなり全取引先に切り替えると定着しない
受発注システムの導入で起こりやすいのが、最初からすべての取引先をWeb注文に切り替えてしまうケースです。
もちろん、最終的にはWeb注文へ集約できるのが理想です。
しかし、取引先ごとにITリテラシーや注文頻度、社内体制は異なります。
特に起こりやすいのは、次の3つです。
- 操作方法の問い合わせが一気に増える
- Web注文とFAX注文が混在し、社内が二重対応になる
- 使う取引先と使わない取引先が分かれ、運用ルールが曖昧になる
受発注システムは、導入しただけでは定着しません。
取引先にとってもメリットがあり、無理なく使える範囲から始めることが重要です。
2-2. 現場の業務フローを整理しないまま導入してしまう
もう一つ注意したいのが、現在の業務フローを整理しないままシステムを入れてしまうケースです。
| 曖昧になりやすいこと | 導入後に起こりやすい問題 |
| Web注文を誰が確認するのか | 注文確認が遅れる、担当者によって対応が変わる |
| FAXで届いた注文をどう扱うのか | Web注文とFAX注文が二重管理になる |
| 在庫情報をいつ更新するのか | 取引先が見た在庫と実在庫にズレが出る |
| 注文内容の修正・キャンセルをどう扱うのか | 電話やメールでの例外対応が増える |
システム化は、単にツールを導入することではありません。
今ある業務の流れを整理し、「どこをシステムに任せ、どこを人が対応するのか」を決める作業でもあります。
2-3. 取引先への説明が不足して使われなくなる
受発注システムは、取引先にとっても新しい運用になります。
そのため、導入前後の説明が不足すると、取引先は「今までのFAXの方が楽」と感じてしまいます。
たとえば、次のような伝え方では不十分です。
| 『来月からWeb注文に切り替わります。 今後はこちらのURLから注文してください。』 |
これだけでは、取引先にとって「なぜ変える必要があるのか」「自分たちにどんなメリットがあるのか」が分かりません。
一方で、次のように伝えると受け入れられやすくなります。
| 『よく注文いただく商品をWeb上で確認できるようにしました。 注文履歴から再注文できるため、毎回品番を入力する手間を減らせます。 まずは定番商品のみWeb注文に対応しますので、従来のFAX注文と併用しながらお試しいただけます。』 |
受発注システムを定着させるには、社内都合だけでなく、取引先にとっての使いやすさまで設計することが大切です。
3.受発注システムは「部分導入」から始めると失敗しにくい
3-1. 最初から全社・全取引先導入を目指さなくてよい
受発注システムは、最初から全取引先・全商品・全業務を対象にしなくても導入できます。
むしろ中小企業では、限られた人員や予算の中で無理なく進めるために、対象範囲を絞ることが重要です。
部分導入を考えるときは、次の3つの切り口で整理すると進めやすくなります。
| 絞り方 | 例 |
| 取引先で絞る | 注文頻度の高い取引先、協力を得やすい取引先から始める |
| 商品で絞る | 定番商品、リピート注文の多い商品から始める |
| 業務で絞る | 注文受付、在庫確認、CSV出力など効果が見えやすい業務から始める |
2025年版中小企業白書でも、DXを進める際の問題点として
「費用の負担が大きい」
「DXを推進する人材が足りない」
と回答する事業者の割合が高く、資金や人材といったリソース不足に直面するケースが多いとされています。
だからこそ、受発注業務のシステム化でも、最初から大きく変えるのではなく、効果が見えやすい範囲から始めることが大切です。
3-2. 成功事例:既存業務と並行しながら段階的に移行する
J-Net21では、精密機械加工メーカーの栗原精機が、自動見積り作成支援・受発注システムを活用している事例が紹介されています。
同社が利用しているシステムでは、図面情報をもとに見積書を自動作成できるだけでなく、協力会社との受発注手続きを簡単に行えること、見積りから納品までの金額や納期などのデータをクラウド上に蓄積できることが特徴として紹介されています。
注目は、同社が従来の手書きによる見積書作成作業と並行して利用している段階だと紹介されている点です。
従来の方法と並行しながら、システムの活用範囲を段階的に広げている点は、受発注業務のシステム化にも参考になります。
受発注業務でも、最初からすべてを新しい仕組みに置き換えるのではなく、効果の出やすい業務から試し、社内体制や取引先とのやりとりを見直しながら対象範囲を広げていく進め方が現実的です。
このような進め方であれば、現場の不安を抑えながら、受発注業務のシステム化を進めやすくなります。
出典:J-Net21ものづくりコミュニティと自動見積・受発注で相乗効果「栗原精機」
3-3. 部分導入では「使えるか」を検証する
部分導入の目的は、単に対象範囲を小さくすることではありません。
本格導入の前に、実際の運用で問題なく使えるかを確認することにあります。
たとえば、Web注文に切り替えたときに、取引先が迷わず商品を探せるか。
社内では、注文確認から在庫確認、出荷手配までの流れに無理がないか。
FAXや電話で届いた注文と、Web注文をどのように管理するか。
こうした点は、実際に運用してみないと見えにくい部分です。
最初の段階で課題を把握できれば、対象取引先や商品数を広げる前に、画面の見せ方、商品情報の整備、社内ルール、取引先への案内方法を見直せます。
部分導入は、導入規模を抑えるためだけでなく、定着しやすい運用をつくるための準備期間として捉えることが大切です。
4.受発注システムをスモールスタートする進め方
4-1. 対象取引先を絞る
最初は、すべての取引先ではなく、協力を得やすい取引先から始めます。
特に向いているのは、注文頻度が高く、注文内容がある程度定型化している取引先です。
関係性が良く、導入時の説明やテスト運用に協力してもらいやすい相手であれば、初期段階でのつまずきを減らせます。
最初の数社で運用を確認してから対象を広げることで、社内にも取引先にも負担をかけにくくなります。
4-2. 対象商品を絞る
次に、登録する商品を絞ります。
全商品を一度に登録しようとすると、商品名、品番、価格、画像、在庫、カテゴリなどの整備に時間がかかります。
最初は、定番商品やリピート注文が多い商品から始めるとよいでしょう。
品番で注文される商品や、画像があると選びやすい商品も、Web化による効果を感じてもらいやすい対象です。
商品点数が多い企業ほど、最初の登録範囲を絞ることが重要です。
4-3. Web化する業務を絞る
受発注業務には、注文受付、在庫確認、納期回答、見積書作成、出荷手配、請求処理など、さまざまな業務があります。
最初からすべてをシステム化しようとすると、導入範囲が大きくなりすぎます。
まずは、注文受付だけWeb化する、在庫確認だけオンライン化する、注文データをCSVで出力するなど、効果が見えやすい業務から始めるのが現実的です。
このように分けることで、費用や開発範囲を抑えながら、効果を確認しやすくなります。
4-4. FAX・電話との併用期間を決める
スモールスタートでは、既存のFAX・電話注文をすぐにゼロにする必要はありません。
ただし、併用期間を決めずに始めると、いつまでも二重管理が続いてしまいます。
そのため、導入前に最低限、次の3点は決めておくと安心です。
| 決めておくこと | 理由 |
| どの取引先をWeb注文の対象にするか | 対象外の注文と混同しないため |
| FAX注文を誰がシステムに登録するか | 注文情報の抜け漏れを防ぐため |
| いつ効果を確認するか | 対象を広げる判断をするため |
ポイントは、既存業務を残しながらも、Web注文へ移行する流れを止めないことです。
4-5. 効果を確認してから対象を広げる
小さく始めたら、必ず効果を確認します。
確認する項目は、多くしすぎる必要はありません。
まずは、次の3つを見るだけでも十分です。
| 確認項目 | 見るポイント |
| Web注文の利用状況 | 対象取引先が継続して使っているか |
| 問い合わせ件数 | 操作方法や在庫確認の問い合わせが増減しているか |
| 社内作業時間 | 注文入力や確認作業の時間が減っているか |
効果が見えれば、次の取引先や商品カテゴリへ展開しやすくなります。
逆に、問い合わせが多い部分や使われにくい機能があれば、対象を広げる前に改善できます。
5.まとめ|受発注システムは、小さく始めて定着させる
受発注システムは、最初からすべての業務を切り替えなくても導入できます。
むしろ、いきなり全取引先に切り替えてしまうと、取引先への説明や社内運用が追いつかず、定着しない可能性があります。
中小企業では、費用や人材に限りがあるからこそ、まずは一部の取引先、定番商品、注文受付や在庫確認など、効果が見えやすい範囲から始めることが重要です。
小さく始めて、運用しながら課題を見つけ、改善してから対象を広げていく。
その進め方であれば、現場にも取引先にも無理なく、受発注業務のシステム化を進めやすくなります。
まずは、今の受発注業務の中で「すぐに変えられる部分」と「段階的に変えるべき部分」を分けるところから始めてみてはいかがでしょうか。
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